蓄音機 ─言葉とか催眠とか─

催眠が好きです。言葉や催眠や文具、その他面白そうな事について、ああとかこうとか書いて行こうと思います。

ホーホーのさいみんじゅつ ─催眠の基礎知識─

  今日3月21日は、「催眠術の日」と言われている。催眠術師がよくやる、「3・2・1」というカウントダウンが由来になっているとのこと。というわけで、今日は催眠術の話をしようと思う。

  
  昔話から始めよう。僕が小さい頃、姉がプレイするポケモンを覗いていた時のこと。
  姉のホーホーが、「さいみんじゅつ」を使った。敵は眠ってしまう。
「なんで催眠術をかけられた相手が寝るんだろう?」
僕は不思議だった。姉に質問したいところだったが、ゲームの邪魔をすると容赦ない蹴りが飛んで来るのでぐっと我慢したのだった。
 
  僕はどうもレアケースであるらしい、と、のちのち催眠をやるようになってから初めて知った。
  催眠との出会い方のお陰で、初めから正しい催眠の知識──オカルトでも超能力でもヤラセでもなく、心理的な技術であるということ──を持っていたのである。

  多くの人が催眠術をどう捉えているのか、最近になって色々わかってきた。せっかくの催眠の日だし、催眠好きにとってはベタだろうけど、ちょっと説明をしてみようと思う。
 
ホーホーのさいみんじゅつ
  ホーホーのさいみんじゅつの特徴はなんだろう。少し考えてみよう。
 
①相手を眠らせる
  まずこれが一つ。
 
②嫌がる相手にかけることができる
  敵にかけているんだから、相手が協力的なわけがない。嫌がる相手でもかけられる、と考えるのが良さそうだ。
 
③失敗することがある
  他の攻撃と同じで、外すというか、失敗する場合もある。これはちょっと面白い。
 
おれたちの催眠術
  では、現実の催眠術はどうなのか。
...ちなみに僕は、催眠術というとなんか胡散臭いので普段は催眠と言うのだが、ホーホーに対抗してあえて催眠術と言ってみる。
 
①寝かせるのは下手な人
  催眠術にかかった状態、『催眠状態』というのはリラックスしている状態だとよく説明される。なので外から見ると眠っているように見えがちだけれど、目を閉じてマッサージを受けている人が眠って見えるのと同じで別に眠っているわけではない。
  とはいえ、相手を寝かせてしまうこともある。どういう場合かといえば、相手が既に深い催眠状態に入っているのに、その見極めができずもっとリラックスさせようと頑張ってしまった場合だ。しかし眠ってしまった相手には、基本的にほとんど暗示が通らない。そういうわけで、たいていの場合において、相手を眠らせてしまうのは下手な催眠術と言っていいと思う。
 
②協力してもらわないといけない
  ホーホーのように、敵対している相手に僕たちが催眠術をかけるのは無理だ。細かく言うと、敵対のレベルにもよるだろうけど、自分を襲ってくるとわかりきっている催眠術師の催眠術にかかることはまずない。
  僕たちの使う催眠術は、イメージとしては「かかり手の想像力を実現する技術」である。たとえば、普通の人は水を飲むときに「これはオレンジジュースの味がする水だ」と想像することはできるけど、実際飲んだら「やっぱり水の味だ」と現実に負けてしまう。ここで、かかり手の想像力に加勢してやることができるのが催眠術なのだ。かけ手とかかり手が力を合わせて、「水の味がする」という現実に想像力を勝たせることができれば、水はオレンジジュースの味に(かかり手の主観的には)なる。これが催眠術のイメージだ。
  そう、だから、非協力的なかかり手に催眠術をかけるのは原理的に非常に難しいのだ。なぜなら非協力的なかかり手にとっては、そもそも想像力を現実と戦わせる気がなかったり、戦わせるまでもなく現実の方が好ましかったりするならである。ホーホーのさいみんじゅつとは、多分原理が根本的に違うんだろうなぁ。
 
③やっぱり、失敗することはある
  嫌がる相手にだってさいみんじゅつをかけてしまうホーホーでも失敗するんだから、もちろん僕たちも失敗する。ホーホーが失敗するかどうかは命中率の問題なんだろうけど、僕たちの場合はもっと色々な要素が絡まっていて、これは上に書いた②の内容と深く関わってくる。
 
  要素を大きく分けると、以下のあたりになる。
・催眠術が嫌だ
  かかり手が、「なんだかんだ言って、催眠術にかかるのは怖いなぁ、嫌だなぁ...」と思っていると、②の理屈でかかり辛くなる。
 
・この催眠術は嫌だ
  催眠術には、実は色んなかけ方がある。そして、かかり手によって当然好き嫌いも出てくる。かかり手が「この催眠術のかけ方は私の趣味じゃないな」と感じると、やはり②の理屈でかかり辛い。
 
・この催眠術師は嫌だ
  声が嫌い、見た目が怪しい、年がずっと下だから信頼しにくい...もうなんでもアリだ。かかり手が「この人嫌だなぁ」と思ったら、それがかかり辛い理由になり得る。もちろん、逆──付き合ってみたら良い人だとわかってある日突然かかるようになる──もあり得る話。
 
・この暗示は嫌だ
  これも②の理屈だ。上に書いた「催眠術が嫌だ」の項と根本的には同じことで、普段催眠術にかかる人でも「この暗示は怖い」「この暗示はやりたくない」と思ったら一気にかかり辛くなる。
※ちなみに、暗示というのは「水がオレンジジュースになる」「椅子から立てなくなる」などの『命令文の形をとったお願い事』のことである
 
 
  さて、以上の「さいみんじゅつvs催眠術」の比較を通して一番伝えたいのは、
催眠術は嫌がる人にはかからないし、かけ手の立場は世間の人が思うよりずっと弱い
 
・かかりたいけど未だかかれていない、という人も、かけ手やかけ方が変われば案外かかるかもしれない
 
ということである。
  この記事を、催眠クラスタ以外の人がたくさん読んでくれると嬉しいんだけどなぁ。